FP&Aの仕事内容で、FP&Aはデータ分析に基づいた問題解決のプロフェッショナルであることをお伝えした。
即ち、FP&Aとしての価値を提供するには、この問題解決スキルを身に付けていることが必要不可欠となる。
ではそのデータに基づいた問題解決スキルとは、具体的にどのようなスキルなのか。実際にスキルを使用していく具体例を交えて説明していきたい。
今回は、誰もが一度は経験することになるであろう「売上減少の原因を突き止め、売上を回復させる打ち手を考える」というケースで実務で行われるデータ分析のやり方を共有したいと思う。
尚、これから扱うデータは筆者が独自に作ったもので、現実のものとは無関係であることを断らせていただく。
はじめに、データに基づいた問題解決の3ステップを押さえておきたい。
データに基づいた問題解決の3ステップ
- トレンドで実績を分析する…トレンドが変わったときに何が起こったのかを把握する。変わらなくてもその背景を理解する
- 相関関係を見つけて打ち手を出す…何が、何を、なぜ引き起こすのかを理解する
- その打ち手が成功するには、どんな仮定の正しさが証明される必要があるかを考える…仮定を並べただけでは意味がない
たったこれだけ?と思った人もいれば、早速わからん!と思った人もいるだろう。
後者の人には今は難しそうに聞こえるかもしれないが、全く問題ない。
まずこの回でそれぞれのステップを具体例とともに細かく説明して腹落ちさせていくので安心して聞いてほしい。
技術的な話より重要なこと
具体的なステップに入る前に、技術的なデータ分析の話に加えてそれ以上に重要なことをお伝えしておきたい。それは、一つ一つの過程で一緒に仕事をするメンバーと理解を揃えながら仕事を進めるということだ。
あなたが完全に一人で仕事をしているならその必要はないかもしれないが、筆者を含め大多数の人は誰かと関わり、チームで仕事をしている。
そのチームで成果を出す必要がある環境で、例えばステップ1〜3を全て自分一人でやり終わった後に、ステップ1の段階で他のメンバーと違う理解に基づきその後の分析を進めていたことがわかり、その自分の理解が間違ったものだったとしたらどうなるだろう。
ステップ2・3でせっかくやったことが無駄になってしまい、また一からやり直すハメになる。
そういう事態にならないためにも、一つ一つのステップで、適宜チーム全員の理解を揃えながら一緒に進んでいく姿をイメージして、各ステップの中身を聞いてほしい。
分析の前に仮説を立てる?
データ分析に関わる人なら「分析の前に仮説を立てることが先だ」という話を聞いたことがある人も少なくないのではないだろうか(むしろそういう助言の方が多い気がしてならない)。
その考え方は決して間違ってはいないのだが、それは時と場合による。読者の皆さんの中には、初めてデータ分析をする人や新入社員、人事異動や転職をしてから日が浅くまだそのビジネスのことをよく知らない人もいらっしゃると思う。
そういう人にいきなり仮説を持てと言っても、何もインプットがないところから正しい仮説を立てることは決して簡単なことではない。
また、そのビジネスを担当して一定期間が経っている人や、そのビジネスに詳しい人においても、デキる人はそのビジネスのトラッキングにこのトレンドで見る方法を採用している。
そしてその流れで正しくインプットを更新しながら仮説を立て続けているのだ。
つまり、ステップ1の「トレンドで見る」は、「仮説を立てるためのインプットを得る方法」として捉えてもらいたい。
1. トレンドで実績を分析する…トレンドが変わったときに何が起こったのかを把握する、変わらなくてもその背景を理解する
ステップ1で大切なことは以下の3つだ。
- 移動平均で実績の推移(=トレンド)を把握すること
- そのトレンドが何によって成り立っているかを理解すること
- その理解を一緒に仕事をするメンバーと揃えること
① 移動平均で実績の推移(=トレンド)を把握する
移動平均?何それ?と早速思ってしまった人も多いと思う。実際私もそうだった。
移動平均とは、一定区間の平均値をその区間を保ちながら時系列でずらして並べたもの、つまり平均値の推移だ。
例えば、12ヶ月移動平均は、1月〜12月までの12個の点で1つ目の平均値を計算し、2つ目は2月〜翌年1月までの平均値、3つ目は3月〜翌年2月までの平均値、といった具合だ。
下図を見てもらうとよりわかりやすいと思う。(Y1= Year1)
この移動平均=平均値の推移こそ「トレンド」と呼ばれるものの正体であり、一番初めに理解すべきものだ。
この段階で、ざっくり次のレベルでトレンドを把握しておく。
- この事業は3年間成長率を上げながら成長を続けていたが、1年前からダウントレンドに入り、今もまだそれが続いているな。
この移動平均グラフをエクセルで作成する方法は以下の通り。
I. 売上を時系列で右に伸ばすように入力する。(Ⅱの図を参照)
II. 売上の下に移動平均の枠を用意し、12ヶ月分でAVERAGE関数を入力する。
III. グラフにしたい範囲を選択して、挿入タブ→マーカー付き折れ線グラフを選択する。
② そのトレンドが何によって成り立っているかを理解する
トレンドが把握できたら、その次にやることは、そのトレンドに影響を与えている実績を見つけて、それをインパクトの大きい順に把握することだ。
上の事業Aを例に取ると、大きく2つのポイントを理解する必要がある。
1つは過去3年間成長を続けることに貢献した実績で、もう一つはダウントレンド期間中に無くなった実績だ。
これはデータを見れば簡単にわかる。具体例で見ていこう。ここでは消費財メーカーでのケースを想定してみる(分かりやすくするために商品や販売先を3〜4つに絞って説明していく)。
過去3年間成長を続けることに貢献した実績は、次の3つを見つけにいく。
- Year1からYear2にかけて増加した実績
- Year2からYear3にかけて増加した実績
- Year3からYear4にかけて増加した実績
<Year1からYear2>
- 商品Aが、小売チェーンAとBで増加しているな。
- 商品Bが、小売チェーンAで増加しているな。
<Year2からYear3>
- 商品Aが、新規開拓した小売チェーンCで採用されたな。
- 商品Aが、小売チェーンAで増加しているな。
- 商品Bが、小売チェーンAとBで増加しているな。
<Year3からYear4>
- 新商品Cが、小売チェーンAとBとCで採用されたな。
- 商品Bが、小売チェーンCで採用されたな。
- 商品Aが、小売チェーンAとBとCで増加しているな。
- 商品Bが、小売チェーンAで増加しているな。
直近1年間のダウントレンド期間中に無くなった実績も同様に、Year4からYear5にかけてデータを見つけにいく。
<Year4からYear5>
- 商品AとBが、小売チェーンAで減少しているな。
③ その理解をメンバーと揃える
ここまできたら、早速必要な相手(営業やマーケティング、経理・FP&A、もしくは上司など)と理解をすり合わせよう。
もしかしたらその相手はあなたと違った見方をしているかもしれないし、あなたがエクセルの操作を間違えてデータを誤って処理してしまった可能性もある。
それ以前の問題で、抽出したデータがそもそも間違っていたなんてことも実務では起こり得るのだ(そんなまさかと思うかもしれないが実務ではこういうことが結構起こる)。
もしそういうミスがあっても、幸いエクセルに慣れてくればここまではそう時間をかけずにたどり着くことができるので、この段階でミスを発見できたらラッキーくらいの認識でいるといい。
もし相手と異なる理解をしていた場合は、その差がどこからきているのかをはっきりさせよう。
その過程で自分の見方を相手に包み隠さず共有すれば、相手からの信頼も得られるだろう。
2. 相関関係を見つけて打ち手を出す…何が、何を、なぜ引き起こすのかを理解する
ステップ2で大切なことは、ステップ1で見つけたトレンドに影響を与えている実績がなぜ発生したのか or 発生しなかったのかを理解して、正しい打ち手を出すことだ。
このプロセスは2段階に分けて行っていく。
- 一旦データを離れてロジックツリーを作る
- ロジックツリーで分解した要素をもとにストーリーを作る(仮説を立てる)
① ロジックツリーを作る
ここで活躍するのがロジカルシンキングというツールで、この記事に関心を持っている皆さんの中にはすでに学ばれている方も多くいることと思う。
このツールは非常にパワフルで、個人的には小学校の必須科目にすべきだと思うくらいにみんなのためになるものだと思っている。そして実際に小学生の頭脳でも学べる考え方なのだ。
この記事の最後に、私も学んだロジカルシンキングの書籍を厳選して載せておくので、興味のある人は参考にしてほしい。
それでは、具体的にそのロジカルシンキングをどのように使っていくのか、その話に入りたいと思う。
ここは具体例を出して話した方がイメージしやすいので、ステップ1の直近1年間のダウントレンドが発生した理由を例にとって見ていきたい。
最終的に出来上がるのは、下図のようなロジックツリーだとイメージしてほしい。
ロジカルシンキングを使うと、例えばこういう順番で考えることができる。
- 既存品のAとBは売上が下がっているけど、新商品のCは下がっていないんだな。
- 小売チェーンAでは売上が下がっているけど、小売チェーンBと新規開拓した小売チェーンCでは下がっていないんだな。
- 要するに、小売チェーンAの、継続して取扱のあった商品で何かが起こっているんだな。
- それって要因次第では将来的に新しい製品や小売チェーンにも同じことが起こる可能性もありそうだよね。
- じゃあ、既存のビジネスで売上が下がる要因って何があるんだっけ?
- まずは売上=単価×数量でしょ。
- 単価が下がるとしたら、競合が価格戦略を仕掛けてきてそれを追随したか、我々が自ら積極的に価格戦略に打って出たか、もしくは小売チェーンから何らかの理由で値下げの要求があったのか。商品別に見て売上が下がっているわけだから、ここではMI X(品種構成)は関係ないな。
- だとするとメーカー(競合と自社)から値下げを提案する理由ってなんだっけ?他社の価格戦略を追随した?価格弾力性の分析を行った結果、価格戦略の優位性が見出された?コストが下がって顧客に還元できるようになった?
- それと小売チェーンが値下げを要求してくるケースはどうだろう?ライバルの小売チェーンが価格戦略を仕掛けてきた?主要店舗の近くに価格が売りのチェーンが新規オープンした?他メーカーと同等の値下げを要求してきた?小売店側が価格弾力性を発見した?
- 次に数量はどうだろう。数量ベースのシェアが下がってるんだっけ?それともマーケット自体が縮小してるんだっけ?
- 数量ベースのシェアが下がるのはどんなときだろう?自社商品の魅力が相対的に低下した?その場合、他の既存品の魅力が向上した?新製品の発売があった?それは既存メーカーによるもの?もしかして新規参入があった?それとは全く別の話で営業戦略に問題がある?営業戦略自体には問題がなくてもエクセキューションに問題がある?それとも調達や製造、物流に問題があって出荷できていないだけ?
- マーケット自体が縮小しているとしたら、それにはどんな可能性があるだろう?消費者が他のカテゴリーに流出した?オンライン・オフライン含めて他の販売チャネルへの流出の可能性はどうだろう?購買層の人口が減った?不況で消費が渋っている?
ここで改めてロジックツリーを見てみよう。
作成過程がイメージできただろうか?
精神論ではないが、このロジカルシンキングができるようになるには練習が必要だ。
大谷選手が最初からメジャーで二刀流を成功させることができたわけではないように、私たちにもトレーニングが必要となる。
② ストーリーを作る(仮説を立てる)
さあここからが面白くなるところで、ついに相関関係を見つけるフェーズがきた。何が、何を、なぜ引き起こすのか。これを見つけにいく。感覚としては、考えるというより、パズルのようにうまくハマるピース同士を探してつなげる、というものに近い。
デキる人にはこれを頭の中でやってしまう人も多いが、私ははじめのうちはそれができなかったので、独自の方法を考えた。本当に物理的にパズルをやってみることにしたのだ。
まず、ロジックツリーで分解した要素をポストイットに書き出してピースをたくさん用意する。そしてそのピースを並べてみて、順番を入れ替えたり、取り替えたりを実際にやってみる。このやり方なら、頭の中で考えるよりも視覚的に整理がしやすく、さらにゲーム感覚で実践できると思う。
これは個人でやってもいいし、チームで一緒にやってもいい。題材によってはチームでやる方がより楽しく取り組めるだろう。
今回のケースでは、例えば次のようにパズル(ストーリー)を組み立てることができる。
- 5年前に振興メーカーが高付加価値商品を引っ提げて参入してきたが、無名かつ全国的にオフライン(実店舗)チャネルでの取り扱いがなかったので放っておいた。
- その1年後、その商品がE Cチャネルでじわじわと売上を拡大し始め、
- そこから更に2年経った頃には、実店舗でもちらほら見かけるようになってきたが、
- 自社製品の既存マーケットでの売上は伸び続けており、まだまだ自社の売上に影響を与える規模にもなっていなかったため、無視を続けた。
- その1年後、気づいたときにはその振興メーカーに加えて競合メーカーもその高付加価値カテゴリーに新商品を発売し、そのカテゴリーの成長は小売チェーンにとって魅力的なものとなっていた。
- そして我々はというと、そのカテゴリーに商品は持っておらず、彼らの新製品の採用と引き換えに小売チェーンAで商品AとBが定番カットされてしまった(棚落ち)。その結果、売上の減少が止まらずに今に至る。
- この小売チェーンAにおける商品AとBの定番カットを引き起こした要因は、商品魅力が低下している中で高付加価値カテゴリーが確立されたことにあり、この現象は他の小売チェーンでも起こる可能性が十分にある。よって売上の回復及びその後の継続した成長を図るためには、(A)既存カテゴリーへの新製品の投入と (B)高付加価値カテゴリーへの新規参入が必要となる。
いかがだろうか?それっぽく聞こえるかもしれないが、実はこのストーリーには落とし穴がある。
それを次のステップ3で説明していく。
ここは時間がかかってもよいから参考書籍も活用して理解を深めてほしい。焦らずゆっくりで大丈夫だ。
3. その打ち手が成功するには、どんな仮定の正しさが証明される必要があるかを考える…仮定を並べただけでは意味がない
ここまでストーリーが見えてきたら、
その打ち手は本当に正しいのか?という検証を欠かさずに行う。
ストーリーと、承認を得るのに十分な数字ができたところで満足して、このプロセスを省いてしまったがために、その打ち手を実行した後にそもそもの仮定が間違っていたことに気がついた。しかし時すでに遅しで、期待した成果を得ることはできなかった、という話は巷に溢れている。あなたにも心当たりがあるのではないだろうか。
もう一度言わせてほしい、この検証は欠かさずに行おう。
この検証は、データが取れるものについてはデータで行い、取れないものについては一次情報を取りに行くことが基本となる。
もし一次情報が取れない場合は、定性情報で判断することも必要になってくるので覚えておこう。
これまでの例でそのやり方を解説していきたい。
改めて、ステップ2で作成したストーリーは以下の通り。
- 5年前に振興メーカーが高付加価値商品を引っ提げて参入してきたが、無名かつ全国的にオフライン(実店舗)チャネルでの取り扱いがなかったので放っておいた。
- その1年後、その商品がE Cチャネルでじわじわと売上を拡大し始め、
- そこから更に2年経った頃には、実店舗でもちらほら見かけるようになってきたが、
- 自社製品の既存マーケットでの売上は伸び続けており、まだまだ自社の売上に影響を与える規模にもなっていなかったため、無視を続けた。
- その1年後、気づいたときにはその振興メーカーに加えて競合メーカーもその高付加価値カテゴリーに新商品を発売し、そのカテゴリーの成長は小売チェーンにとって魅力的なものとなっていた。
- そして我々はというと、そのカテゴリーに商品は持っておらず、彼らの新製品の採用と引き換えに小売チェーンAで商品AとBが定番カットされてしまった(棚落ち)。その結果、売上の減少が止まらずに今に至る。
- この小売チェーンAにおける商品AとBの定番カットを引き起こした要因は、商品魅力が低下している中で高付加価値カテゴリーが確立されたことにあり、この現象は他の小売チェーンでも起こる可能性が十分にある。よって売上の回復及びその後の継続した成長を図るためには、(A)既存カテゴリーへの新製品の投入と (B)高付加価値カテゴリーへの新規参入が必要となる。
証明される必要のある仮定
この打ち手が成功するには、どんな仮定の正しさが証明される必要があるだろう?
まず大前提として、①〜⑥が事実であることを証明しなければならない。
これはデータを使って、確実に証明できる。
マーケットデータで以下のような結果が出たら、それは事実として認識できる。
無事に証明できたら、次に⑦の背景にはどんな「仮定」があるのかを見ていこう。
ここが一番肝になるところだ。
ここには大きく6つの仮定が存在する。
- 従来型カテゴリー自体はダウントレンドではない
- カットされた商品A及びBの一店舗あたりの売上が下がっている = 商品A及びBの成長は小売チェーンの新規出店によりもたらされていた
- カットされた商品A及びBの売上単価は下がっていない
- 問題があるのは商品力で、販売方法や営業力ではない
- 高付加価値カテゴリーは今後も伸び続ける
- 高付加価値カテゴリーの他に新規カテゴリーを生み出すという選択肢は合理的ではない
この仮定をあぶり出すときにもロジックツリーが活躍する。
ここでは「その打ち手が成立するための条件は」という視点で考えるとわかりやすい。
もしくは「その打ち手が失敗するとしたらそれはどんなときだろう」と考えてみるのもよいだろう。
次のように一つずつ証明してみよう。
① 従来型カテゴリー自体はダウントレンドではない
→下図の通り、マーケットデータは従来型カテゴリーが継続して増加傾向にあることを示している。
よってこの過程は正しいと判断できる。
② カットされた商品A及びBの一店舗あたりの売上が下がっている = 商品A及びBの成長は小売チェーンの新規出店によりもたらされていた
→下表の通り、出荷データは一店舗あたりの売上が減少していることと、新店舗への売上がその減少を補いトータルで成長という結果になっていることを示している。
Y5で一店舗あたりの売上がプラスになっているのは売上規模の少ない店舗の売上が定番カットによりゼロになった結果、効率性が上がったように見えている。
よってこの仮定は正しいと判断できる。
③ カットされた商品A及びBの売上単価は下がっていない
→下図の通り、出荷データは売上単価が変化しておらず、売上の減少が数量の減少によってもたらされていることを示している。
よってこの仮説は正しいと判断できる。
④ 問題があるのは商品力で、販売方法や営業力ではない
→消費者調査の結果、カットされた商品自体の満足度は変わらず高いことが確認された。
一方で、購入数量が減った理由を尋ねると、お店でその商品が見当たらなくなったという回答が大半だった。
店頭調査も同時並行で進めていたが、その結果、まだ取り扱いが残っている店舗で、売上の約半分を占めていたエンド棚が他社に奪われていることがわかった。
カットとなる前の状況を営業担当者にヒアリングすると、その営業担当者は当時新しく取引が始まった小売チェーンCに付きっきりで、カットされた小売チェーンAへの営業活動が滞っており、その影響でエンド棚が他社に奪われていたことが判明した。
別の営業担当者が担当している小売チェーンBの売上が減少していないことも、この事実を浮かび上がらせる。
これらを総合すると、問題があるのは商品力ではなく、販売方法と営業戦略であることが明らかになった。
よってこの仮定は間違っていると判断できる。
⑤ 高付加価値カテゴリーは今後も伸び続ける
→他の消費財ビジネスも含めて、過去に新カテゴリーが形成され市場規模を拡大していった事例を見ていくと、既存カテゴリーが増加傾向にあるケースでは高い確率で新カテゴリーも拡大していくことがわかった(マーケットデータを購入して確かめることが可能)。
加えて、小売チェーンと卸パートナーの戦略についてもヒアリングを行った結果、彼らも今後高付加価値カテゴリーに注力していく意向であることが確認できた。
さらに、消費者調査の結果、高付加価値カテゴリー製品に対する定性的な満足度、定量的なリピート率やトライアル率、購買意欲のいずれも既存カテゴリー製品を上回るものであることがわかった。
よってこの仮定は正しいと判断できる。
⑥ 高付加価値カテゴリーの他に新規カテゴリーを生み出すという選択肢は合理的ではない。
→他の消費財ビジネスも含めて、過去に新カテゴリーが形成された後、1〜2年という短いスパンで立て続けに次の新カテゴリーが確立した事例は見当たらず(ここも同様にマーケットデータを購入して確かめることが可能)、
売上減少を食い止めることが急務であることを考慮すると(今の会社の財務状況的に時間的猶予はない)、今出てきた高付加価値カテゴリーに新製品を投入した方が成功する確率が高いと考えられる。
よって、この仮定は正しいと判断できる。
検証の結果
この検証の結果、高付加価値カテゴリーへの新規参入は正しい選択肢だと納得することができると思う。
一方で、既存カテゴリーへの新製品の投入についてはどうだろう。
問題があるのは商品力だという仮定に基づいて出した打ち手だったが、実際に問題があるのは販売方法と営業戦略だった。
そうなると、既存カテゴリーに新商品を投入したところでその販売方法及び営業戦略の改善なしには成果を出すことは難しいと判断できるだろう。
この場合、真っ先に取り組むべきことは営業戦略の見直しであり、商品そのものではない。
自分でやってみよう
いかがだろう。自身で検証するイメージが持てただろうか?
筆者はこれまでに、こういう検証をせずに数字に満足してそのままアイデアを採用してしまうケースや、検証の結果どれもリスクが高いとは分かりつつ、それでも時間に追われて採用してしまうケース、営業本部長の一声で決まってしまうようなケースを幾度となく見てきた。
その一方で、チームメンバーの一人ひとりが自身で考えた打ち手の検証までを自分自身で行い、各自のアイデアに磨きをかけて持ち寄り、それを更にチームで磨き上げていくという素晴らしい組織で働く機会にも恵まれた。
そのような組織では、今回の課題に対して、一体どのような打ち手を繰り出すのだろうか。
今の時点で難しく感じたら、参考書籍も活用しながら考えてみてほしい。
あなたなら、この売上の減少に対してどのような打ち手を出すだろうか?
仲間に納得してもらえる打ち手を考え、チームを動かしていくのがFP&Aだ。
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参考図書)ロジカルシンキング関連
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参考図書)エクセル関連
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