FP&Aに興味を持っている皆さんが、実際にFP&Aとして働くことになった場合に果たしてどのような実務が待っているのか。未経験の方にも具体的に理解してもらえるように、今回は筆者や他の会社でFP&Aとして働いている友人がどのような実務をやっているのか紹介していきたい。
FP&Aは大きく3つに分類される
FP&Aの仕事内容を実務ベースで紹介するに当たり、みなさんにまず押さえておいてほしいことがある。それは、一口にFP&Aと言ってもその担当する部門が大きく次の3つに分類されるということだ。
- Commercial FP&A (事業部門のFP&A)
- Corporate FP&A (本社部門のFP&A)
- Plant FP&A (製造部門のFP&A)
会社によっては製造部門がなかったり、これらのどれかが重複していたりすることもあるが、基本的にFP&Aが担当する部門は大きく分けてこの3つとなる。
これは日系の管理会計部門においても同じような構造になっていることが多いはずだ。
筆者の外資系2社におけるFP&Aの経験は、いずれも①のCommercial FP&Aであり、おそらくみなさんが興味を持っているのもこのポジションの場合が多いと思う。外資系企業では求人の数自体も、このポジションがその大半を占めている。
ここではそのニーズの多いCommercial FP&Aの仕事内容について、詳細を説明していきたいと思う。
Commercial FP&AはCorporate FP&AやPlant FP&Aとも連携することが求められるため(もちろん会社によるが)、それらとのつながりについても触れていきたい。
【リスト】 Commercial FP&Aの仕事内容(実務ベース)
はじめに、一般的なCommercial FP&Aが役割を担う仕事をまとめておく。
- 中長期計画策定(ブランド/マーケティング/営業戦略策定のリードorサポート含む)
- 来期単年度予算策定(ブランド/マーケティング/営業戦略策定のリードorサポート含む)
- フォーキャスト作成
- 決算分析(月次・四半期・年度)
- レポーティング
- クロージング(決算締め)
- 標準原価(スタンダードコスト)算定
- プロジェクトへの参画(新製品開発、生産拠点移設、コスト削減、ITシステム導入etc.)
- カウンターパートからの相談事の解決
- ビジネス/経営課題の解決に向けた提案
- Visitor対応
【年間スケジュール】 Commercial FP&Aの仕事内容(実務ベース)
未経験の方にも働く姿が想像しやすいように、年間のスケジュールがどのようになっているかも見ておきたい。会社によって期間に幅があるので、ざっくり参考として捉えてほしい。ここでは会計年度を1月始まりとして解説していく。
週単位でまとめた図も用意したので参考にしてほしい。
<1月>
- 本年度予算最終化(会社によって2月になる場合もある)
- 前年度決算締め
- 前年度決算分析
- フォーキャスト作成
- レポーティング
<2月〜3月>
- 本年度予算最終化(会社によって1月に終わる場合もある)
- 月次決算締め
- 月次決算分析
- フォーキャスト作成
- レポーティング
<4月〜6月>
- 中長期計画策定(ブランド/マーケティング/営業戦略策定のリードorサポート含む)
- 月次決算締め(4月:四半期決算)
- 月次決算分析(4月:四半期決算)
- フォーキャスト作成
- レポーティング
<7月〜12月>
- 来期単年度予算策定(ブランド/マーケティング/営業戦略策定のリードorサポート含む)
- 標準原価(スタンダードコスト)算定
- 月次決算締め(7月・10月:四半期決算)
- 月次決算分析(7月・10月:四半期決算)
- フォーキャスト作成
- レポーティング
<通年>
- プロジェクトへの参画(新製品開発、生産拠点移設、コスト削減、ITシステム導入etc.)
- カウンターパートからの相談事の解決
- ビジネス/経営課題の解決に向けた提案
- アドホック分析(ad hoc analysis)
- Visitor対応
通年で行っていく業務についても具体的に触れておきたい。
例えばカウンターパートからは以下のような相談事が日々持ち込まれる。
カウンターパートからの相談事の例
- 担当ブランドの年間の売上見込みを作成したのだが、FP&Aとしての意見を聞かせてほしい
- 今すぐにこのマーケットセグメントに新製品を出すべきだと考えているが、FP&Aとしてはどう思うか
- 来年の売上ターゲットは+10%で組みたいと考えているが、その場合コストの増加はどこまで許容されるか教えてほしい
- 売上が低迷している原因が突き止められない。FP&Aの力を貸してほしい
- 中長期のブランド戦略は継続的な新製品の発売によるマーケット規模の拡大を中心に考えているが、FP&Aとしてはどうするのが正しいと考えているか
- マーケットの状況をこのように解釈しているが、FP&Aはどう見ているのか
- 新規ビジネス立ち上げのブレストに付き合ってほしい
- この取引先での売上拡大のために人員を追加したいのだが、FP&Aから見ても妥当かどうか教えてほしい
- 人事評価に使う目標値を設定したのだが、これが妥当かどうかFP&Aとして検証してほしい
- 上司に「もっと論理的によく考えてみて」と言われたのだが、どうすればよいのか行き詰まってしまっているので助けてほしい
FP&Aは日々みんなに頼られる存在
上記の相談事はあくまで一部だが、実際に筆者やその友人たちが経験した事例だ。
これらの相談事を解決するためには、問題解決スキルを身に付けていることが必須となる。
より踏み込むと、「ストーリーを作成し、それを論理的に証明するためのデータ分析スキル」 を身に付けていることが必要不可欠なのだ。
FP&Aは、このデータ分析に基づいた問題解決のプロフェッショナルであり、仕事を一緒に行う仲間に正しい考え方とデータ分析を提供することで、これらの機会を解決することが期待されている。
FP&Aに必要な問題解決スキルの解説はこちら
FP&Aに必要なスキルセットのまとめはこちら
Corporate FP&Aとの関わり方
Corporate FP&Aは、その会社の各事業を取りまとめ、会社全体としての財務状況を可視化する役割を担っている。そこからインサイトを見つけ出し、会社全体として横断的に取り組むべきことや、会社全体として適切な成長を継続するためのアイデアを提案することがCorporate FP&Aの仕事だ。
実務での関わりはというと、中長期計画策定や単年度予算策定、フォーキャスト、決算分析といった場面でコミュニケーションを行うことになる。
特に外資系の場合は、各事業部だけでなくCompanyとしてもそれらをどう描いているのかということを海外のリージョン組織や本社に正しく伝えることが必要になるため、Commercial FP&AがCorporate FP&Aに担当事業の状況を正確に共有しなければならない。
Plant FP&Aとの関わり方
Plant FP&Aは工場付けのFP&Aで、以下のようなケースでの連携が代表的である。
- 標準原価計算を行っている場合、毎年更新のタイミングで連携して財務諸表へのインパクトを見極め必要なアクションを合意する。
- 新製品開発で複数案がある場合、それぞれの案に対して原価計算を依頼する。
- 製造ラインの追加投資を計画する際に、工場の物理的なキャパシティを確認したり、どういうオプションが考えられるのかをディスカッションしたり、その投資の製品毎へのコストインパクトを算定してもらったりする。
- 工場移設・移転の際に影響の出る製品に対して、そのコストインパクトを算定してもらい必要に応じて改善案を出してもらうor一緒に考える。
Plant FP&Aは会社によっては存在していてもほとんど絡むことがないという話も聞くので、Corporate FP&Aとの連携内容よりも会社次第だということを覚えておいてほしい。
日系企業の管理会計と外資系FP&Aの違いや、FP&Aに必要なデータに基づいた問題解決スキルの解説も是非参考にして、FP&Aへの理解をより深めてほしい。